消費者契約法 中間とりまとめに対する意見提出 9/30

一般社団法人消費者のみらいを考える会は、消費者契約法専門調査会が「中間とりまとめ」に対する意見を提出しました。

 

当会が提出した意見書については下記よりダウンロードできます。

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消費者契約法中間とりまとめに対する意見.pdf
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また、提出意見内容を下記に転載しておりますので、こちらもあわせてご確認ください。

消費者契約法 中間とりまとめに対する意見


我々、「一般社団法人消費者のみらいを考える会」は、平成27年7月1日に設立された消費者団体です。

現在、消費者のおかれる環境は多様化、複雑化しており、それに伴い、消費者も多様な価値観を持つようになってきています。我々は、そうした多くの消費者の声を、政府、団体、企業に向けて発信していくことを目標としています。また、インターネットを通じて次世代の消費者の育成支援をすすめて参ります。これらの活動を通して、私たちは、様々な価値観を持つ消費者の「最大多数の最大幸福」の実現を目指します。


さて、現在、消費者契約法の改正が検討されているところではありますが、消費者契約法は、「消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差」の存在、すなわち「消費者が弱く、事業者が強い」という前提に立ち、両者の契約におけるパワーバランスを是正する目的で定められた法律と理解しています。しかしながら、本法が施行された平成13(2001)年に比べ、現在の「消費者」は多様化し、主体的に商品・サービスを選択することが一般的になっているといえるのではないでしょうか。

様々な事情によって、自ら主体的に情報を取得したり、適切に判断を下したりすることができない「自立しえない」または「いまだ自立できていない」消費者も少なからず存在している一方で、インターネットの発達に伴い、自ら情報を入手し、自己責任にもとづき主体的な判断を行うことができる、いわば「自立した」消費者も相当数存在しております。そのため、従来の「弱い」消費者像を、画一的に平均的な消費者と想定した法制度が現代においても適切であるか否かは、改めて検証する必要があると考えております。

「自立しえない」消費者に対する保護、特に、判断力が十分でないために悪質事業者の被害に遭った消費者の救済が十分に行われなければならないことは言うまでもありません。その一方で、健全な事業者が大量かつ定型的な形でサービスを提供することにより、多くの消費者が良質かつ安価なサービスを享受できているという側面も考慮する必要があると考えます。

「自立した」消費者は、的確な情報の提供と自律的な判断を行う機会さえ与えられれば、かかる環境下における意思決定の結果については自分で引き受けることができます。このような消費者の変化に目を向けない議論は、場合によっては不都合な結果を招来しかねないことを懸念します。「自立しえない」消費者の保護を十分に行うことは当然としても、これを一般化し、「消費者」の保護のみを進めることが消費者全体の利益に沿うのだという議論に対しては、消費者の立場から異を唱えます。多数の消費者の利益を最大化できるような方向での議論こそがなされるべきです。


かかる観点から、先日公表されておりました、消費者契約法専門調査会「中間取りまとめ」に対して、以下のとおり当団体としての意見を述べさせて頂きます。ご高配のほど、宜しくお願い致します。

 

第1.「見直しの検討を行う際の視点」について


そもそも、中間取りまとめには、次のような記述があります。


"まずは、平成13年の法施行後、インターネットの普及を通じ、消費者による情報の収集等が容易になっている側面もあるが、消費者が関わる取引が多様化・複雑化し、情報の量も増加する中で消費者がトラブルに巻き込まれる場合もある。そこで、消費者が正確な情報を選択した上で、意図した内容の取引を行うことができるように配慮する必要がある。"


インターネットの普及により消費者の情報収集が容易になっているという認識は我々と正に一致しますが、「情報量が増加する中で消費者がトラブルに巻き込まれる」という記載は少し印象操作に近い表現であるように思われます。情報量が増えればその中に誤りが含まれ、消費者がトラブルに巻き込まれることもあれば、情報量が増えた結果、消費者が適切に判断できる可能性も高くなります。消費者が「正確な情報を選択した上で意図した内容の取引をする」ためには、選択できるだけの十分な量の情報が必要です。

しかし、消費者にとっての情報源・情報入手手段は、契約の直接の相手方である事業者に限られるものではありません。インターネットには、商品やサービスに関し、その販売者や製造者以外によるものを含め、あらゆる情報が掲載されています。販売事業者自身に関しても、ちょっと検索すれば「評判」「口コミ」という形で情報を得ることができます。それらは発信者の主観によるものなので、同じ対象について、プラス評価もあればマイナス評価もあることを消費者は知っています。インターネットのコミュニティの中で十分な情報が得られる場合には、消費者は、販売事業者自身からの情報を期待することなく、既に購入意思を固めた商品が簡易に安価に購入できることを望みます。

このような消費者像は、もはや、「インターネットを駆使するごく一部の消費者」の話ではありません。パソコンやスマートフォンなどのインターネット利用者数は1億人を超え(人口普及率は、82.8%)、商品・サービスの購入・取引をインターネットの利用目的とする消費者は57.2%にのぼります。(※平成26年情報通信白書 総務省)

現在求められるのは、あらゆる消費者が、あふれる情報の中から真に必要な情報を選択し、自らの責任で意思形成し、意図した内容の取引を行う能力の向上です。

もちろん、高齢や病気その他の事情により十分に情報を活用することができない消費者が悪質な事業者の被害に遭った場合の救済は図られなければなりません。故意に誤った情報を伝える事業者は厳しく罰せられるべきでしょう。しかし、これらを一般化して規律を設け、消費者契約全般に適用することには大きな疑問があります。一部の弱い消費者を悪質事業者から保護するコストは社会的に避けられないものと考えますが、それはあくまで弱者救済として、また悪質事業者に対する法の厳正な執行により実現されるべきです。保護を必要としない消費者に対しても一律に過剰な取消権を与えることにより健全な事業者に発生するコストは、価格その他の形で、全ての消費者に対するデメリットとして跳ね返ってきます。

消費者契約法見直しの視点の一つに「社会経済状況の変化への対応」が挙げられていますが、少なくとも「インターネットの普及」という要素に着目する限り、上記述べた「消費者自身の情報活用力の飛躍的向上」が最も大きな変化であると考えられ、事業者と消費者の一般的な格差を引き続き前提とする見直しの方向性は、明らかに誤っていると言わざるを得ません。

 

第2.総則


1.消費者概念について

消費者と事業者のパワーバランスは変化しております。実質的には消費者の集合体にすぎない団体と取引を行う事業者が、自ら事業を行っている消費者であるといったことも起こりえます。また、消費者概念が拡張されることによって増える事業者の対応コストは、結果的に消費者に転嫁されるなどのデメリットにもつながりかねませんし、対応コスト増に耐えられない弱い事業者が事業を継続できなくなる結果になれば、一般の消費者にとって選択の幅を狭めることになりますので、結果的に消費者にとって不利益となることは明らかです。

したがって、安易に消費者概念を広げることが一般に消費者の利益になるとは考えられませんので、慎重に検討すべきと考えます。


2.情報提供義務について

基本的に、事業者においては消費者に対して十分な情報提供を行うべきと考えています。従って、現行法第3条第1項に努力義務として規定が置かれているのは合理的と考えますが、法的義務とすることには反対です。 

消費者が契約相手に求める情報は、内容も程度も千差万別で、一義的に決まるものでは到底ありません。また、提供された情報が自分にとって十分でない場合、前述のとおり、消費者は自ら事業者に質問することや、事業者以外のところから情報を得ることができます。そのような努力を行わず、事業者から説明されたことのみを判断材料として契約してしまう消費者は、高齢や病気などの問題を抱える場合は別として、一般的には保護する必要はないものと考えます。むしろ、事業者に過剰な対応コストが発生することで、自ら情報収集できる消費者に不利益が生ずることを懸念します。

もちろん、事業者が故意に重要な情報を隠匿していた場合は責任を追求されて然るべきですが、それは消費者契約法によらずとも、民法の不法行為等で対応可能と考えます。

インターネット時代の消費者は、自らが行おうとする取引に関する情報として、販売者や製造者が提供するものだけではなく、利害関係のない第三者から得られるものを重要な判断材料としています。そして、自らが収集した多数の情報から、購入するかどうか、更に、どの事業者から購入するかについて意思決定をします。A社から得られた情報に基づいてB社から購入することは日常茶飯事であり、最終的な契約相手となる事業者(この例ではB社)にのみ、情報提供に関する責任を負わせることが消費者・事業者にとって有益となるとは思えません。


3.契約条項の平易明確化義務について

消費者に対して十分な情報提供が行われるべきであり、契約条項が平易明確である必要性は高く、現行法第3条第1項に努力義務として規定が置かれているのは合理的と考えます。

しかしながら、消費者の条項理解能力は千差万別であるため、全ての消費者にとって平易明確な条項を事業者に期待するのは不可能です。もしも理解力の著しく劣る消費者にもわかる言葉で条項が作成された場合、ある程度の知識のある消費者にとっては、却って内容がわかりにくくなる可能性があることを危惧します。そのため、この平易明確義務を法的義務とすることはその内容の不明確性等の観点から反対です。


4.消費者の努力義務について

前述のとおり、現在求められるのは、あらゆる消費者が、あふれる情報の中から自らに必要な情報を収集・選択し、意図した内容の取引を行う能力の向上です。消費者において主体的に様々な情報を収集し活用することは当然必要であり、事業者から提供された情報の活用と理解にとどまらず、自ら主体的に情報を収集することまでを努力義務として求めても良いと考えます。ただし、より重要なことは、消費者のリテラシー向上であって、より高度な努力義務を求めるのと同時に、国や地方公共団体における更なる教育施策も求めたいと思います。


第3.契約締結過程


1.「勧誘」要件のあり方について

「勧誘」概念を検討するに先立って、この「勧誘」概念が問題となるのは、本来であれば契約締結をした以上は詐欺または錯誤に該当しなければ取り消しえない(または無効を主張しえない)契約について、その程度に至らないものであっても、一定の事実の不告知等の事情がある限りにおいて、広く契約の取り消しを認め、もって消費者の保護を図る趣旨にあります。

すなわち、もともと契約の原則を大幅に修正し、消費者保護のためにいったん締結した契約の取消権を広く認めるものであるからこそ、余り契約が不安定にならないよう、取り消しうる前提として、事業者が消費者の契約締結の意思の形成に影響を与える程度のすすめ方をすることまで要求したものです。かかるそもそもの立法趣旨からすれば、むやみに「勧誘」の概念を希釈化するのは、契約の大原則からの乖離を益々認めることになるだけでなく、契約が不安定化することによって、大量かつ定型の消費者契約だからこそ提供されている安価で良質なサービスを消費者の側が享受できなくなるというデメリットも否定できません。だからこそ、消費者保護の名目で「勧誘」概念を安易に拡張すること自体については慎重に検討すべきです。

現行法で「勧誘」と解釈される行為は、特定の消費者に対し、一人もしくは複数名が、当該消費者の感情の変化等をくみ取りながら行う行為といえます。それゆえ、双方向のコミュニケーションができない不特定多数に向けた広告やチラシについては、消費者の意思形成に直接的に影響を与えているとは考えられないという解釈がなされてきたものと考えられます。しかしながら、チラシや広告が勧誘とみなされることになると、自分が見たチラシや広告に誤りがあった(あるいは重要なことが書かれていなかった)といって取消しをしようと考える消費者が増加することが考えられ、主体的に情報収集を行い、比較検討し自己責任において判断をしている自立した消費者との間に不公平感が生じることになるのではないかと懸念します。

また、広告がすべて勧誘になるわけでないとしても、広くチラシや広告が勧誘とみなされる可能性が残っていれば、安全策として、単に商品を印象づけるための「イメージ広告」や「電車のつり広告」等の広告の中にさえ過大な情報を詰め込まなければならないということになりかねず、逆に消費者にとって分かりにくい結果となりかねません。したがって、不特定多数向けの「広告」が「勧誘」に含まれるとすると解するのは慎重であるべきと考えます。


2.断定的判断の提供に関して

そもそも「必ず痩せる」などといった、本来は不確実な事項に対して断定的判断を提供するようなものについては、これ自体を法で規制するというよりは、消費者教育を進め、消費者の「リテラシー」を上げていくことで対処できるようにするべきと考えます。

また、一般的に、事業者が不確実な事項を確実だと断定した場合に、契約を締結するか否かの消費者の意思決定に影響を及ぼす可能性があることは否定しませんが、「必ず痩せる」、「運勢が良くなる」といった「財産上の利得に影響しない」将来に関する断定的判断が提供されたとして、一般的にその内容を信じるかと言えば、そうではないと思われます。

そういう情報を信じてしまった消費者は、提供された情報ではなく、心理状態につけ込むような勧誘によって誤認に至らしめられていると考えられます。そのため、「つけ込み型勧誘」で対応できる規定を検討するべきだと考えますし、その意味で本とりまとめの見解に対して、方向性としては賛同します。


3.不利益事実の不告知について

事業者から受けた勧誘が不当であった場合、消費者が意思表示を取り消すことができるという法の基本的考え方にはもちろん賛同します。しかし「不利益事実の不告知」については、一般的な情報提供義務とは異なる規律として現行法で抑制的に要件が設定されているところ、今回の見直しで要件が削除された場合、取消権が格段に主張しやすくなることが予想されます。その結果、これを悪用した声の大きな(クレイマー的な)消費者が得をするという事態になることを危惧します。

消費者としても、法律に規定される自らの権利について知識を持つことが望ましいと我々は考えておりますが、「不利益事実の不告知」の類型を「不実告知型」と「不告知型」とに分けるという考え方は、消費者にとって果たしてわかりやすいでしょうか。利益となる旨の告知と不利益事実との関連性の強弱で分けるという定義は、相対的かつ曖昧で、消費者が容易に理解できるものとは言えないのではないかと考えます。この曖昧さを逆用し、関連性が強いと強く主張することにより故意要件が不要となり取消しが認められるといったように、濫用的に使用される規定となる恐れが強いと考えます。

契約の対象となる商品やサービスによっても、必要な情報・リスクは異なります。消費者契約すべてを包括する消費者契約法で一般的かつ広範囲な情報提供を求めることについては慎重にご検討いただきたいと思います。


4.重要事項

消費者の価値観は多様化しておりますし、限定列挙されている「重要事項」に該当しないものであっても、かかる事実をもとに締結された消費者契約の中で取り消しを認めるべきものはありますので、重要事項の拡張をする、本とりまとめの方向性には同意します。

ただし、その定義が明確に定められなければ、消費者・事業者とも、解釈を争うこととなり、多数の消費者取引に混乱を生じさせることになりかねません。特に、重要事項の拡張が「不利益事実の不告知」にまで適用された場合、事業者は、このような紛争を回避するため、防衛的にいかなる情報でも表示しておこうという判断をしがちになりますが、そのような事態は、消費者から見れば、逆に何が重要な情報なのかが分かりにくい結果となる恐れがあり、明らかに消費者にとって不利益と言わざるを得ません。 

また、むやみに重要事項を拡張し、例えば一般条項のようなものを追加すると、一部の声の大きな(クレイマー的な)消費者が「気に入らない」サービスや商品の「気に入らない箇所」が契約締結の判断に影響を及ぼすのだと主張して契約の取り消しを訴えてくるような事案が頻発することが容易に予想されます。このような紛争の解決に要する事業者側のコストは、その他大勢の通常の消費者が負担をせざるをえず、一般の消費者にとって必ずしもメリットとは考えられません。


5.不当勧誘行為に関するその他の類型

(1)困惑類型の追加

消費者に対して自己責任を問うためには、冒頭に述べたとおり、十分な情報提供を行うことと自律的な判断を行う機会を与えることが肝要です。かかる観点から言えば、自律的な判断を妨げるような行為は、現在の不退去や監禁以外の行為態様であっても、「困惑類型」の不当勧誘行為として取消を認めることは重要なことだと考えます。

①執拗な電話勧誘や②威迫による勧誘はまさに消費者の自律的な判断を妨げるものですので、不当勧誘行為の一つに該当しうるものと考えます。

ただし、取消事由とするにあたっては、「誰が見てもこれは取り消されて然るべき」とい

う要件、あるいは「取消しを受けるに足る消費者側の特別な事情」等を定義し、範囲を限定すべきです。

パソコン画面に怪しげな警告表示が出ても、通常の知識を持った消費者であれば、そのままクリックして契約してしまうことはありません。縁日で入れ墨を見せられたからといって、食べたくもないたこ焼きは買いません。そもそも今日、タトゥーはファッションです。

特定商取引法等で禁止された勧誘行為を行う事業者は厳しく罰せられるべきですが、取消しという強い民事効果を与える範囲を安易に拡大することにより、不注意・知識不足・不明確な意思表示等、消費者として望ましくない行為や態様が正当化され、賢く行動する自律的消費者を目指す意欲が削がれることを危惧します。


(2)不招請勧誘

いわゆる「不招請勧誘」に関しては、これ自体が特段消費者の自律的な判断を妨げるものというべきものではありません。前述のとおり、普通に意思表示のできる消費者であれば、望まない勧誘をされても「断れば良い」だけの話です。突然、玄関チャイムや電話が鳴って応対しなければならないこと自体が迷惑であるという思いも理解はできますが、既に多くの家庭では、来訪者を画面で確認した上でロックを解除する仕組みや、常に留守番電話にしておくなど、不招請勧誘を受けないための自衛手段を講じているものと思います。

自衛手段を講じることのできない一定の層に対する過剰な勧誘など、現在、問題になっている事例がもしあるのであれば、その実態を精査した上で、まず特定商取引法における訪問販売規制や電話勧誘販売規制で対応するべきで、今後必要に応じて検討するとの本とりまとめの見解に同意します。

ただしその場合も、事前約束のない訪問や電話が消費者の利益となる場合があることに配慮すべきと思います。身近なケースとして、地方で独り暮らしをしている高齢の母親が宅配弁当の契約をしたきっかけは訪問勧誘であった、という事例が実際にあります。情報収集手段が限られた消費者にとっては、訪問勧誘や電話勧誘がなければ知り得なかった便利なサービスを知ることができるというメリットは無視できないと思われます。


(3)合理的な判断を行うことができない場合

消費者が、高齢や病気その他で判断能力不十分である場合、それを殊更に利用して不必要な契約を締結させる行為は悪質であり、「自立していない」消費者を保護するため、新たに救済条項を設けることについては賛同します。

特に、「弱い消費者」を個別に狙って悪質な勧誘行為を行う事業者に対して確実に取消しの申し立てができるよう、事業者がどのような行為をすれば「事情を利用して」と言えるのか等、要件該当性の判断基準をできる限り客観的な形で示していただきたいと考えます。

ただし、いかなる場合に取り消しを認めるのかについては今後の検討課題だと考えます。この点、本とりまとめにおいて検討されている「知識・経験の不足」という要件では、悪意を持った消費者が、「知識・経験の不足」の抗弁を奇貨として、乱用するようなことにつながりかねません。これは、消費者一般にとって不利益であることは明らかです。また、合理的な判断に欠けることを理由に安易に契約の取消等が行われるようになれば、例えば、一般の事業者は高齢の消費者との取引を拒絶することにつながりかねません。これは高齢者の選択肢を狭めることになりかねません。これが高齢者一般にとって不利益であることもまた明らかです。以上から、消費者の「知識の不足」をもって安易に契約を解除しうる規定を設けることに対しては反対です。取消しを主張できる「消費者側の状態」についても客観的・限定的に定める必要があると思われます。


6.第三者による不当勧誘

一般的に、事業者と不当勧誘を行う第三者との関係を証明することは非常に困難です。そのため、事業者と不当勧誘を行っている第三者との関係を証明することまで求めるべきとは考えられませんが、少なくとも第三者が不当勧誘を行っていることを知っており、しかも消費者に誤認が生じていることまでを知っていた場合であれば、そういった誤認によって利益をあげようとしていることは明らかですから、消費者に取消権を認めるべきだと考えます。


7.取消権の行使期間

自己責任において購買行動を行う多数の消費者にとっては、行使期間を延長することによって特段利益となることはありません。むしろ、訴えを起こすことができる期間が延長することにより、声の大きな(クレイマー的な)消費者が、商品やサービスを費消した後に何年も前の勧誘が不当であったと取消しを主張するなどが許容されれば、消費者間に不公平感が生じることを懸念します。


8.法定追認の特則

繰り返しとなりますが、自立した多数の消費者は、契約内容について理解し、自らの意思によって、支払い行為を行います。当然ながら、債務の一部または弁済に応じたという行為が消費者の取消事由の認識とは合致しないということになれば、支払い後に知らなかったという主張が容易にできてしまうということになります。

消費者が自立しえるためには、自らの消費行動から学習していくことが重要であり、安易に取り消しが主張できるような要件は拡張すべきではないと考えます。


9.不当勧誘行為に基づく意思表示取消の効果

新民法制定の議論が行われている現在の状況をふまえ、この論点については、当面解釈等に委ねるべきと考えます。

 

第4.契約条項


1.賠償責任を免除する条項

消費者が危険やリスクがあることを承知のうえで、自己責任にもとづいて締結したにも関わらずその契約条項を無効とできることになれば、野球やバスケットボール等の観戦、ボルダリングやスキューバダイビング等、消費者が当たり前に享受している娯楽やスポーツにおいて大きな影響が生じるものと言わざるをえません。事業者は必ず責任を負う前提で、高額な保険加入等の対応を講じることになりかねず、その結果消費者契約が、非常に高額になってしまい、そのリスクを負えないと事業者が判断してサービスから撤退すれば、消費者にとって採りうる選択肢が狭まってしまうことにもなりかねないと考えます。

したがって、軽過失の場合に人身損害についての損害賠償責任を一部免除する条項に関しては一律に無効とすべきではないと考えます。


2.損害賠償額の予定・違約金条項

そもそも消費者契約において、消費者が支払うべき賠償金額に関する規定が、必ずしも消費者契約の解除に伴う場合のみに使用されているわけではないのであれば、「契約の解除に伴う」場合に限られないと解すべきです。

また、「平均的な損害の額」について一方的に立証責任を消費者に負わせるというのは適切でないという観点から、実務上も訴訟指揮等で柔軟な事案の解決が図られている状況もふまえ、本とりまとめにあるとおり、同種事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える部分を当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える部分と推定する規定を設けるか、あるいは、現状どおり、裁判所における柔軟な訴訟指揮によって適切な解決が図られることを期待するか、いずれにしても、消費者が立証しやすい方向での見直しをするべきと考えます。


3.消費者の利益を一方的に害する条項

消費者の利益を一方的に害する条項は無効にすべきとの規定に関しては、本来当該条項がない場合と比べて消費者の権利を制限し、または消費者の義務を加重するものかどうかを判断するという規定と解すべきと考えます。

したがって、最高裁平成23年7月15日付判決において判示されたとおり、「民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定」(「任意規定」)には、「一般的な法理等」も含まれると解すべきであり、本とりまとめの見解のとおりと考えます。


4.不当条項の類型の追加

基本的に、不当条項に関しては、法第8条、第9条、そして第10条において、それぞれ無効にする旨規定されています。もちろん一回的な紛争解決のため、本とりまとめにおいてまとめられているような条項を明確に定める方法もありますが、インターネットサービスなどで、消費者の安全安心な利用環境を提供するため、悪質な利用者に対し解除や解約を行っているようなケースまでをも規制することにならないか、また現場において追加された規定が悪意のある消費者の側に濫用されることによって一般の消費者に不利益が生じる可能性がないか等も十分に精査する必要があり、現時点では、現行法第10条での対応を深く検討すべきだと考えます。


第5.その他の論点


1.条項使用者不利の原則

契約の条項について、解釈を尽くしてもなお複数の解釈の可能性が残る場合に条項の使用者に不利な解釈を採用すべきとする考え方については、自ら契約条項を準備して使用している場合に、できる限りその内容を事業者が明確にすべきであり、条項が多義的であることによるリスクは事業者が負うことが公平に合致すると考えることもできるとされており、我々もこの考え方には基本的に賛同します。

ただし、取引の現場において、解釈を尽くすこともなく、単に複数の解釈が残ることを利用して、自らに有利な解釈を主張する悪意のある消費者が出てくることによって、一般の消費者に不利益が生じる危険も考えなければなりません。どのような場合に条項使用者不利の原則を適用しうるか、客観的に明らかにすることが必要だと考えます。


2.抗弁の接続等

関連する複数の契約のうち、一つの契約について無効・取消等の事情が生じたとき、他の契約を締結した目的が達成できなくなる場合があります。しかし、この場合の当事者は多く、法律の安定性が問われる結果となることから、このような場合に、第5条で対応するほか、その他の要件は慎重に検討すべきと考えます。


3.継続的契約の任意解除権

継続的役務受領型契約においては、消費者の任意の解除権が認められている(民法第651条(準用)、特商法第49条第1項)こととの均衡の見地から、消費者が事業者から継続的に商品を購入する継続的契約に関して、任意の解除権を認めるべきか、現時点においては裁判例や相談事例の状況も見定めながら検討すべきと考えます。

 

第6.おわりに


冒頭で述べたとおり、社会情勢の変化に伴い、消費者の価値観や購買行動は変化しています。そして自己責任にもとづき、自立した消費活動を行っている消費者も決して少なくありません。こうした自立した消費者は、多くの選択肢から自ら情報を収集し、契約の意思決定を行うことを望んでいます。わが国の消費者の主流は、そうした自立した消費者となっていると言っても過言ではありません。

消費者契約法はすべての消費者間取引に影響をあたえるものですので、一部の消費者の利益も重要ですが、結果としてすべての消費者にとって利益が最大化されるような改正がなされることを希望します


今後の検討にあたっては、多様な消費者の利益が損なわれることのないよう、ぜひとも専門調査会の場でも、こうした立場からの声をお伝えできる機会を頂戴いただけることを切に願います。

 

以上